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大阪地方裁判所 昭和56年(わ)3806号 判決

主文

被告人を懲役五年に処する。

未決勾留日数中七〇日を右刑に算入する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、岡林滋夫、楠本恵美子らと共謀のうえ、韓国から覚せい剤を密輸入することを企て、

第一  営利の目的をもつて、昭和五六年八月二一日、韓国釜山空港から日本航空九六八便航空機に、フエニルメチルアミノプロパン塩を含有する覚せい剤結晶九九三・四グラム(昭和五六年押第七八一号の一ないし一三はいずれも鑑定消費後の残量)をキヤリーバッグの底に隠匿携帯して搭乗し、同日午後三時五〇分ころ、大阪府豊中市螢池西町三丁目五五五番地大阪国際空港に到着して、右覚せい剤を陸揚げし、もつて本邦内に輸入した

第二  同日午後四時二〇分ころ、右大阪国際空港内大阪税関伊丹空港税関支署旅具検査場において、同支署係員から旅具検査を受けるにあたり、同係員に対し、右覚せい剤を輸入する旨の申告をせず、もつて税関支署長の許可を受けないで、これを輸入しようとしたが、同係員に発見されたためその目的を遂げなかつた

ものである。

(証拠の標目)(省略)

(法令の適用)

被告人の判示第一の所為は、刑法六〇条、覚せい剤取締法四一条一項一号、二項、一三条に、判示第二の所為は、刑法六〇条、関税法一一一条二項、一項にそれぞれ該当するところ、所定刑中、判示第一の罪については有期懲役刑を、判示第二の罪については懲役刑をそれぞれ選択し、右は刑法四五条前段の併合罪なので、同法四七条本文、一〇条により重い判示第一の罪の刑に同法四七条但書の制限内で法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役五年に処し、同法二一条を適用して未決勾留日数のうち七〇日を右の刑に算入する。

(量刑の理由)

本件犯行により扱われた覚せい剤は合計約一キログラムと多量であるうえに、このような韓国からの密輸入による本邦への覚せい剤流入が、わが国現下その防圧が焦眉の急とされている覚せい剤事犯多発の根源をなしているものであつて、本件は、たまたま転々譲渡されて使用されることが妨げたものの、さもなければ、広範囲にわたりはかり知れない害悪を惹起していたもので、その反社会的危険性は軽視しえず、また、被告人は、共犯者楠本恵美子が徳島県下で覚せい剤の女王と呼ばれ、実際に覚せい剤を密売していたこと及び本件覚せい剤も同女を介し他に分散譲渡されることを十分知りながら、同女から本件犯行に誘われるや、安易に利益を得ようとして、容易にこれに加担したものであつて、その動機にはほとんど酌量の余地なく、以後、渡航手続、ビニール袋の購入、覚せい剤の小分けなどにも積極的に関与して判示犯行に及んでいるなどの事情に照らすと、その罪責は誠に重いと言わざるを得ないのである。しかして、幸いにして本件覚せい剤の転々譲渡が未然に防止されたこと、被告人には同種の前科はなく、共犯者からの誘いがなければ本件のような犯罪は犯さなかつたと思われること、裕福とはいえない生活であるのに、長年にわたり妻の弟や妹の子供の面倒をみるなど、その生活態度は真面目であつたこと、本件について一応反省悔悟していることなどの被告人に有利な事情や健康状態などを十分斟酌しても、主文の量刑はやむを得ないものと思料する。

よつて主文のとおり判決する。

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